鈴木ひとみさん講演会
「車イスからの   
   出発(たびだち)」
 今から13年前、 ファッションモデルの仕事の帰りに中央高速道路で交通事故に遭い、頸椎を骨折してしまいました。絶望の中で、彼(主人)や、リハビリの先生をはじめ多くの人達から「もっと前向きに生きていくこと」の大切さを教えられ、勇気も与えられました。彼(主人)から渡された「しつけ箸」を、食事の時に苦労しながら使っていくうちに、指の動き、手の握力も少し回復し、自由に動かないなりに工夫するということが身に付き、そのうち自分で服が着られるようにもなりました。鳥取国体出場の推薦をいただいた時の事ですが、遠くまで出かけることへの不安で出場するかどうか悩んでいたところ、リハビリの先生から“人に迷惑がかかったっていい。迷惑ということを頼む勇気があなたには必要なんだ。”と諭されたお蔭で、私の気持ちの中に、もっとおおらかになって、この障害を前向きに受け入れようという想いが芽生え、国体にも出場することにしました。
 日本では、身障者というと身構えたような、はれものに触るような感じで接します。身障者のことを英語でハンディキャップと言います。ゴルフではハンディキャップルールがあって、ハンディの多い人が少ない人に勝つチャンスがあります。ハンディの多い人は、ハンディを減らそうと一生懸命努力します。しかし、現状の社会では、健常者が身障者に接する時、ゴルフに例えると、 身障者がバンカーに打ち込んだ時に健常者が“あなたは体が不自由だから手で出していいですよ。”というような接し方をします。身障者を見るとむやみに手伝ったり、 身障者が自分でできるチャンスまでも奪ってしまっているのです。もっと自然に接してほしいと思います。
 障害者となった人が、いつまでも暗く沈んでいる光景を見かけますが、大変残念に思います。まるで、世間の不幸を一身に背負ったかのようにいつまでも嘆き悲しんでいることこそ悲しいことはありません。治るけがであれば、いつまで泣いていてもいいかも知れませんが、治る目処がないなら、その状態でいかに有意義に過ごすようにするか、頭を切り換えるべきだと思います。身体が不自由になってしまったために、元のような生き方はできないかも知れません。しかし、残された身体の機能によって、今までとは違ったことができる可能性もあります。ですから、自分の残された身体の機能に期待して最大限の努力をし、社会に貢献するべきではないでしょうか。これは、障害者だけではなく、健常者も含めてすべての人に課せられた義務だと思います。
 人間の心は、障害を持ったことによって一生浮かび上がれなくなってしまうものではないと思います。むしろ、障害を持たなかった頃よりももっと成長した、そんな生き方をしたいものです。私は、自分が障害者となって、より一層生きる機会を余分に与えられたんだと、そう考えています。
鈴木 ひとみさん プロフィール
●大阪生まれ。●19歳のとき、「ミス・インターナショナル日本大会」において、準日本代表に選出される。●その後、ファッションモデルとして活躍●昭和59年8月、交通事故に遭い、頸椎を骨折●昭和62年8月にイギリスで行われた「国際ストーク・マンデビル競技大会(車椅子陸上競技の世界大会)」で金メダルを獲得●「車椅子の花嫁」などでテレビ出演